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「否定と肯定」を観て、裁判制度について思い出したこと
ホロコーストはなかったと主張する学者が起こした裁判が映画になったと聞いたとき、公開されたらぜひ観に行かねば、と思っていた。日本が起こした南京大虐殺についてもデッチ上げと主張する人々がいるから、共通するその種の主張について、どう描かれているかに、大きな興味があった。
冒頭、主人公の日常、それも、愛くるしい大型犬に、いかにも日課、という風情でエサの皿を置く姿などから始まり、硬派の語り口を想像していたこちらとしては、やや戸惑いを感じた。
ほどなくアメリカの大学の講義風景も出てきて、彼女がアウシュビッツの歴史を専門としている教員であることがわかる。このあたりからの展開はスピーディーだ。別の場。彼女は「ホロコーストの真実」という本を出版しその記念らしき講演をしている。唐突に現れる、「ホロコーストはデッチあげだ」と主張するイギリス人の学者。
あらすじや予告を見てから足を運んだ人は予測していたシーンかもしれないが、なるべく映画は予備知識なく見られたらそれにこしたことはない、と実践している私には十分衝撃だった。
大学教授といっても学者バカではない、丁寧に暮らしを楽しむことも知っている一人の女性が、突然窮地に立たされる、さあどうする?というサスペンス性は、観客を惹きつけ飽きさせない。
また、対決する初老の学者を演じるティモシー・スポールもわざとらしくないものだから、一気に緊迫感が生じる。この俳優を私は好みなのだが、出演作一覧を見たら、意外とそうは観てなくて、「ハリーポッター」シリーズに至っては、観たはずなのに気づかなかった、ということに気付かされた。
見方を変えれば、それくらいキャラの(そして体型も!)違う役を演じられるカメレオン俳優ということだと思うが。
プロフィールによれば、ロイヤルシェークスピアシアター出演歴もある正統派俳優だが、私がしかと彼の出演作として観た中で一番のお気に入りはディズニー作品「魔法にかけられて」だから、これだけでも、彼の演技の幅広さはおわかりいただけるのではないかと思う。ちなみに余談だが、本来劇団としてはロイヤルシェークスピアカンパニーの筈だから、~~シアターと表記したら間違いではないかと思い調べたら、~~シアターは、~~カンパニーの持っている劇場とわかり、どちらで表記しても間違いではない、ということがわかった。やはりwebは便利だなあ。
閑話休題(それはさておき)。本作のクォリティは、もちろん作品としての水準もあるが、この俳優の起用がかなり寄与していることは間違いないと、私には思える。この役が単なる「イヤなヤツ」になってしまっては、台無しですからね。
彼以外のキャストも、もちろんよい。観客の関心はベテランらしい采配をする弁護団長に向けられることが多いのではないかと思うが、実務を取り仕切っていた中堅弁護士役のキャスティングが私は面白いと思った。いかにもなやり手ぶりが鼻につく人物造詣。他者を信頼して委ねばならない主人公のもどかしさとの対比、その描写がとてもリアリティを生んでいる。
そして中盤。実際のホロコースト跡地に検証に出かけるシーン以後の弁護団の俳優たちとシナリオの展開は、ときにもどかしいが、重厚。序盤のスピーディさからの緩急が、実にいい。
あとはネタバレになるから、感想はこのくらいで。後半の、特に法廷シーンでの独特の緊張感はここ最近観た映画の中では一番だったように思う。
というのも、上映前にトイレは済ませてあったのに、途中でどうにもならないほどの緊張でトイレにかけこんだほどなのである。終わった直後ももう一度かけこんだ事実から、そのくらい緊張を強いる映画だ、ということをお伝えしたいと思う。
そして、実は鑑賞しているさいちゅうに、私はかつて自分が、性差別裁判を闘い勝訴した女性グループを取材させてもらったときのことを、唐突に思い出した。
30年くらい前だ。私はその頃まだ、ジャーナリスティックな取材に慣れていなかった。何年もかかった裁判を闘い抜き、その間に職も婚約者も失ったというその原告団長の女性に対して、今思えば頓珍漢な質問もしたのではないかと冷や汗も出るが、そのとき私はそれまでの自分の中にはなかった、重要なサジェッションを受けたのだ。
彼女が語った正確な言葉かどうか怪しいのはお許しいただきたいが、「雇用者という権力側に非があり、私たちの側に正当性があるのは間違いないことなのに、それを認めさせなければいけない相手は、裁判所という権力。どこまでいっても権力という土俵の中でしか正当性が認められないことが苦しかった」と、教えられた。
抑圧される側の苦しみは、どこまでも果てしない。この映画もそのことを伝えているし、現在の社会状況の中でも、この構図はたくさんある。そのことに思いを馳せると、この映画こそ、より多くの人に観てもらいたい作品だと思う。
冒頭、主人公の日常、それも、愛くるしい大型犬に、いかにも日課、という風情でエサの皿を置く姿などから始まり、硬派の語り口を想像していたこちらとしては、やや戸惑いを感じた。
ほどなくアメリカの大学の講義風景も出てきて、彼女がアウシュビッツの歴史を専門としている教員であることがわかる。このあたりからの展開はスピーディーだ。別の場。彼女は「ホロコーストの真実」という本を出版しその記念らしき講演をしている。唐突に現れる、「ホロコーストはデッチあげだ」と主張するイギリス人の学者。
あらすじや予告を見てから足を運んだ人は予測していたシーンかもしれないが、なるべく映画は予備知識なく見られたらそれにこしたことはない、と実践している私には十分衝撃だった。
大学教授といっても学者バカではない、丁寧に暮らしを楽しむことも知っている一人の女性が、突然窮地に立たされる、さあどうする?というサスペンス性は、観客を惹きつけ飽きさせない。
また、対決する初老の学者を演じるティモシー・スポールもわざとらしくないものだから、一気に緊迫感が生じる。この俳優を私は好みなのだが、出演作一覧を見たら、意外とそうは観てなくて、「ハリーポッター」シリーズに至っては、観たはずなのに気づかなかった、ということに気付かされた。
見方を変えれば、それくらいキャラの(そして体型も!)違う役を演じられるカメレオン俳優ということだと思うが。
プロフィールによれば、ロイヤルシェークスピアシアター出演歴もある正統派俳優だが、私がしかと彼の出演作として観た中で一番のお気に入りはディズニー作品「魔法にかけられて」だから、これだけでも、彼の演技の幅広さはおわかりいただけるのではないかと思う。ちなみに余談だが、本来劇団としてはロイヤルシェークスピアカンパニーの筈だから、~~シアターと表記したら間違いではないかと思い調べたら、~~シアターは、~~カンパニーの持っている劇場とわかり、どちらで表記しても間違いではない、ということがわかった。やはりwebは便利だなあ。
閑話休題(それはさておき)。本作のクォリティは、もちろん作品としての水準もあるが、この俳優の起用がかなり寄与していることは間違いないと、私には思える。この役が単なる「イヤなヤツ」になってしまっては、台無しですからね。
彼以外のキャストも、もちろんよい。観客の関心はベテランらしい采配をする弁護団長に向けられることが多いのではないかと思うが、実務を取り仕切っていた中堅弁護士役のキャスティングが私は面白いと思った。いかにもなやり手ぶりが鼻につく人物造詣。他者を信頼して委ねばならない主人公のもどかしさとの対比、その描写がとてもリアリティを生んでいる。
そして中盤。実際のホロコースト跡地に検証に出かけるシーン以後の弁護団の俳優たちとシナリオの展開は、ときにもどかしいが、重厚。序盤のスピーディさからの緩急が、実にいい。
あとはネタバレになるから、感想はこのくらいで。後半の、特に法廷シーンでの独特の緊張感はここ最近観た映画の中では一番だったように思う。
というのも、上映前にトイレは済ませてあったのに、途中でどうにもならないほどの緊張でトイレにかけこんだほどなのである。終わった直後ももう一度かけこんだ事実から、そのくらい緊張を強いる映画だ、ということをお伝えしたいと思う。
そして、実は鑑賞しているさいちゅうに、私はかつて自分が、性差別裁判を闘い勝訴した女性グループを取材させてもらったときのことを、唐突に思い出した。
30年くらい前だ。私はその頃まだ、ジャーナリスティックな取材に慣れていなかった。何年もかかった裁判を闘い抜き、その間に職も婚約者も失ったというその原告団長の女性に対して、今思えば頓珍漢な質問もしたのではないかと冷や汗も出るが、そのとき私はそれまでの自分の中にはなかった、重要なサジェッションを受けたのだ。
彼女が語った正確な言葉かどうか怪しいのはお許しいただきたいが、「雇用者という権力側に非があり、私たちの側に正当性があるのは間違いないことなのに、それを認めさせなければいけない相手は、裁判所という権力。どこまでいっても権力という土俵の中でしか正当性が認められないことが苦しかった」と、教えられた。
抑圧される側の苦しみは、どこまでも果てしない。この映画もそのことを伝えているし、現在の社会状況の中でも、この構図はたくさんある。そのことに思いを馳せると、この映画こそ、より多くの人に観てもらいたい作品だと思う。
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by yuuko_watanabe3
| 2018-02-05 16:56
| 映画/シナリオ
再開するする詐欺
何度も再開するする詐欺をしてるので、これで何回目だろう。
でも、今月64歳を迎えることになり、そりゃま今のとこ体調も悪くはなってないから、
逆に、わては何歳まで生きてしまうんだろう、の心境だけど、
最近の混迷した社会状況を見ていると、やはり何か書かなきゃ、の心境がずっと続いていた。
書き残していかないと、自分が後悔するような気がするのが一つ。
もう一つのきっかけは、あれほど軍事大国化を嫌い、
戦争を憎んでいたわが父は、いったいどんな体験をし、どんな思想を持ち、
今聞いたらどんなアドバイスをしてくれるのだろう、と思うことしきりで、
聞いておけなかったことを残念に思うこと。
だから私も読ませたい相手は家族、もしくは友人知人だが、残せば、それ以外の誰かに
伝えることもできるだろう。webのメリットを使わない手はないなあと思う。
だがやはり、一番残したい相手は、ムスコだ。
政治も関係することになると、最初はよくてもつい言い争いにまで発展してしまう、
わがムスコとの関係。
ここに書いている以上に深刻な悪循環になっている関係性だから、
今は「こんなもの書いているんだけど」と伝えても、読んでくれるかわからないし、
逆に火種にさえなりかねない。
しかし、私が父亡きあと、今になって彼の思想を聞いておきたかった、と思うように、
いずれ彼も、もしかしたらそんな境地に至ることもあるのではと思うと、
残しておきたい、という気持ちが強くなっている。
今度こそ、途中で挫折しないように、続けたいと思っている。
残しておきたい、という気持ちが強くなっている。
今度こそ、途中で挫折しないように、続けたいと思っている。
できれば、映画の話題を交え(というか、できる限り映画を中心に)、
そしてシフト休の日は必ず書く、ということを自分に課して、
書いていけたら、と思っている。
また詐欺にならないように自戒しなければ、だけど(^-^;。
まず手始めは、最近見た「否定と肯定」を明日から、ってことで。
まず手始めは、最近見た「否定と肯定」を明日から、ってことで。
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by yuuko_watanabe3
| 2018-02-04 16:28
| つぶやき
1
わたなべゆうこです。blog名を「女は51から」より変更しました。
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