2003/12『今日から使える患者指導ノート』より 「女性患者の不安と心理- 価値観は一人ひとり違う」

今日から使える患者指導ノート

前沢 政次 / 日経BP社



 余談ですが、この本の価格は発売当初、4800円+税でしたが、本日Amazonで検索したら、すでに中古本しか流通しておらず、¥ 6,000より となっておりました。Amazon中古本は常に新品より安いものかと誤解していましたが、違うんですね。

 ちなみに、私の執筆部分は4ページにわたっておりかなり長文のため、当初は一部分の抜粋にしようかと考えていましたが、現在は正規の流通はしていないとわかりましたので、法的に問題はないだろうと考え、全文を入力することにしました。
 
 ご関心をもっていただいた方は、「More」からお読みください。
↓こちらです。



婦人*の患者で大切なこと●わたなべゆうこ(フリーライター)
女性患者の不安と心理
価値観は一人ひとり違う
医師にとっては当然でも、患者にとってはそうでないことがある。
とりわけ患者が怖さや羞恥心を感じやすい婦人科疾患において、そのギャップは大きい。
女性患者は医療者のどんな発言や行動に不信を抱き、何を熱望しているのだろうか。*



 私は健康や医療に関するライターをしております。
2001年、「なぜ婦人科にかかりにくいの」と題する書
籍を「子宮・卵巣がんのサポートグループ あいあ
い」の主宰者、まつばらけいさんと共著出版致しま
した。 私たちは以後、様々な団体や媒体から同趣旨
の講演や執筆依頼を数え切れないほど受け、社会全
体の関心の高さを痛感しております。
 私自身、30歳代の10年間婦人科に通院し、2度の
開腹手術をしました。また、その後7年間の患者会
活動(子宮筋腫・内膜症体験者の会「たんぽぽ」)、
子宮がん、乳がんの方への取材を含め。たくさんの体
験談をお聞きしてきました。
 そんな体験を踏まえ、実際に女性患者が、どんな
心理、精神状態になり、医療者のどんな発言、行動
に不安や不信を抱き、どんな情報やサポートを熱望
しているかなどをお伝えしたいと思います。
 医師の皆様が、よりよい医療のために日夜努力し
ておられることは、私もよく知っているつもりです。
残念ながら双方のギャップが足枷になっている部分が
あるとすれば、その原因を探り、今よりさらによいも
のにしていただきたいと思いますし、そのために拙稿
がお役に立てれば幸甚です。

何をどう聞いていいか分からない

 最近、ある医師が講演でおっしゃっていた言葉が
私には大変印象的でした。それは「医師-患者関係
は、昔は地球(医師)の周りを太陽(患者)が回っ
ていると思っていたが、あるときから地球が太陽の周
りを回っていることに気がついた」というお話でし
た。医師もここまで理解してくださるようになった
か、と感銘を受けました。
 しかし現実には、いまだに多くの女性が「話を聞
いてもらえなかった」「おどかされた」など、訴えを
持っています。私自身も、医師とのコミュニケーショ
ンに悩んだ一人です。
 私が子宮腺筋症により、子宮と左卵巣の摘出手術
を受けたのは1993年2月、39歳のときです。多くの
内膜症、腺筋症患者と同様、「あまりの痛みに眠れな
い、少し眠っても激痛で起こされる、月の半分はま
ともな社会生活が送れない」という状態でしたが、そ
の深刻さが、一番分かってほしい医師になかなか伝わ
らないもどかしさがありました。質問もしづらく、何
をどう聞いていいか分からない、という連続でした。
 10人以上の婦人科医にかかりましたが、振り返っ
てみますと、病名はいつも子宮筋腫と説明され、ど
ういう病状であるか、客観的にどう評価したらよい
か、という情報提供がほとんどありませんでした。
 患者は、当然ですが正確な医療情報の入手を望ん
でいます。今の私は子宮腺筋症の臨床での確定診断
は難しいと分かりますが、かといって単なる子宮筋腫
ではあり得ないような激しい痛みを持っている患者に
対して、なぜ腺筋症の可能性を説明していただけな
かったのか、ということは、今でも不思議でなりませ
ん。当時私が感じていた不安や心細さは、今思えば
診断名が明確でなかったことに原因の一端があったと
思います。
 病院からの帰路、渡されたホルモン薬と鎮痛剤を
手に、涙があふれたこともたびたびありました。
 今では患者の側も、医療にはあいまいな領域が多
いことをかなり理解しています。それらについて説明
を避けるのではなく、ぜひ説明していただきたいです
し、不可能なことではないのでは? と思っておりま
す。
 さて、全摘手術後に快適な身体を取り戻した後、
私は自分の受診体験を1冊にまとめて刊行したり
(『子宮筋腫・女のからだの常識』河出書房新社)、自
助グループを友人と二人で設立するなどしました。私
自身が医療情報の少なさ、医療の専門性という壁に
悩み、孤独を感じていたため、学んだり支え合える機
会が多くの当事者に必要だと思ったのです。
 現在では自分自身の当事者性は薄れたと自覚して
グループの活動からは退きましたが、活動には延べ
数千人に及ぶ参加者を得、私自身、電話相談の実施、
医学講座の企画などを通じて、女性を取り巻く医療
について新たな問題意識を得たことは大変貴重な体
験でした。

女性心理の多様性

 医療者とは違う立場ですが、多くの患者体験を持
つ女性と接してきて、当事者の一人でありながら驚
いたのは、一人ひとりの病気観、価値観、セクシュ
アリティーの違いが大きいことでした。人が固有の価
値観を持っていることは自明のことですが、ふだんその
実相は案外見えにくいものです。
 ところが、「性と生殖」にかかわる臓器のトラブル
や悩みは、「産むのか産まないのか産めないのか」と
いう問題に直結しますから、「これだけは譲れない」
という人が少なくありません。女性の人生設計を左
右するばかりでなく、男性との関係性や精神的な
安定も脅かします。 
 例えば子宮全摘を勧めたとき、患者の多様な反応
に直面されている医師は多いことと思います。無言で
涙を流す人、絶対に受け入れられないと強く主張す
る人もいるでしょう。そのとき、「困った患者」扱い
しないでいただきたいのです。人間は一人ひとり違う
ことが当たり前で、少々厳しく言えば「人権」を尊
重するならば、その多様性を肯定的に捉えることが求
められて当然だと思います。

女性心理の普遍性

 電話相談スタッフをしていた当時、「気になる症状
があるが、婦人科には行きたくない」という相談もた
くさん受けました。
 最大の理由は「内診があるから」です。産婦人科
医の目に映る内診台は、日常的な光景でしょう。し
かし性器というプライベートパーツを人目にさらす、
人手に委ねるという体験は、日常生活にはあり得な
いことです。唯一の例外が性交の相手ですが、そう
いう相手であっても視線や接触が苦痛な場合も、決
して少なくありません。患者にとって内診台は「究極
の非日常」であり、苦痛でない人はごくまれです。も
ちろん何事にも例外はありますが、内診台を見たり想
像するだけでも怖さや羞恥心を感じる女性が圧倒的
です。
 医師の皆さんはよく、「眼科で目を診察したり、歯
科で口の中を診察するのと同じですよ」とおっしゃい
ます。ほかの部位と同じ感覚で診ているのだから安心
してかかってください、というお心遣いだと思います
が、患者は多くの場合「視線」や「接触」そのもの
が辛いのであって、視線や接触の「質」を問題にし
ているわけではないのです。
 「検査」という分野全体にも、患者と医師の理解
ギャップがあります。
 現行の医療体制の中では、患者は、検査について
必要十分な説明を受けていません。医師の側からは
よく「どうしても内診に抵抗があるなら腹部の超音波
検査だけでもよい」などの発言や記述もあります。情
報が不十分な上に、必ずしも必要でないもの、と聞
けば患者は混乱します。複数の検査をすることによっ
て総合的な診断の精度が高まることなどを、的確に
手短に述べるだけでも、診療はもっとスムーズになる
のではないでしょうか? 気の進まない検査であって
も、自分に必要であることが十分に腑に落ちれば、
我慢もできようというものです。
 また中には「内診は痛いもの」と思い込んでいる患
者もいます。医師が当然だと思っている知識や情報
が患者に知られておらず、それが恐怖や不安につな
がっていることはたくさんあります。
 診察室の椅子に座っている女性患者一人ひとりは、
そういう葛藤を乗り越えてやっとの思いで病院に来て
いる人々なのだ、ということを、どうか知っていただ
きたいと思います。

小さな不快とセクハラのあいだ

 病院の慣習や何気なく行っている言動が患者を傷
つけている例は、ほかにもたくさんあります。
 例えば、問診票にはたいてい初経の時期や、既婚
か独身か(多くの病院では未婚という表現)を聞く項
目が見受けられます。診断のために欲しい情報かもし
れませんが、必要性が説明されないまま、また文言な
どが適切かどうかの検証のないまま、同じ用紙を継続
使用している医療機関が圧倒的に多いようです。 
 産婦人科外来には、不妊相談で訪れる女性もいま
すが、待合室の壁には乳業メーカーが作った赤ちゃん
の写ったカレンダーが、当たり前のように貼られてい
たりします。ご自分が責任者になったときこうしたポ
スターをはがし、心のなごむ絵画などに替えた医師が
いらっしゃいます。患者の立場にたって考えることの
できる方だと思いますが、周囲の人から謙虚に学ぶ姿
勢のある方なのではないかとも感じました。
 しかしこうした配慮を聞くほうがごくまれです。子
宮内膜症の独身女性に「早く結婚して子どもを産み
なさい」と勧めたり、無月経の悩みを持つ女性に
「だから結婚しなかったの? 」と聞くなど、プライバ
シーに立ち入ってこられる医師の話もよく聞きます。
客観的に読めば、こうしたことが不謹慎であることは
きっとお分かりになることと思います。悪気なくおっ
しゃっているとは思いますが、診断や治療に無益な質
問は厳に慎んでいただきたいと思います。
 また、内診による痛みを訴える女性に対して、「大
丈夫」とか「痛いはずはない」とおっしゃる医師も少
なくないようです。こうした言葉で辛い痛みがやわら
ぐはずはありません。緊張が強いために痛みを感じて
いるのだろうと推測できる場合は、もっとリラックス
できるような言葉かけ、態度、または思いきって検査
を中断するなどの選択肢を、どうか考えていただきた
いものです。
 女性の訴えるこれらは、医師から見たら「小さな
不快」だろうと思われるかもしれませんが、セクシュ
アル・ハラスメントの側面もあります。セクハラとい
うのは、ほとんどの場合、しているほうは相手に与え
ている不快感に気付きにくく、だからこそその被害が
女性にとっては深刻であることが知られています。医
師のハラスメントが報道され、エキセントリックに取
り上げられているとお感じの方もいらっしゃるかもし
れませんが、現実はむしろ常態化、固定化していま
す。私個人は大手マスコミの騒ぎ方は多分に表層的
だと思いますが、社会的に問題視されるようになった
ことは評価しています。

コミュニケーションの達人になる方法

 不安と緊張で病院に来る女性患者に対して、皆様
には良質な医療を提供する、プロとしての責務があり
ます。ぜひコミュニケーションの達人になっていただ
き医療の向上に寄与していただきたいと思いますが、
そのために必要なポイントとして、私から最後に、以
下の3点を挙げたいと思います。

①第一印象を大切に
 何事も最初が肝腎といわれます。医師がどんなに
誠実に仕事をしていらしても、言動で表さなければ、
患者には伝わりません。安心やリラックスを与えるの
と、ケアレスミスで不用意な不信を与えるのとを比べ
たら、前者の効果、後者のダメージの差は計り知れ
ません。名前を自ら名乗る、会釈と挨拶をする、こ
ういったことをお忙しい中で実践されることはそう簡
単ではないかもしれませんが、本稿で述べたような配
慮に加えて、患者を尊重する、目に見える態度があれ
ば、なお一層患者の安心感は増すものと思われます。

②ゆっくり丁寧な説明をする効用
 医師にはなぜか早口の方が多いようです。きっと患者
さんにたくさんのことを教えてあげよう、という親切心も
会ってのことだと思います。しかし、専門用語の混じっ
た難しい話をするときは、常日頃以上にゆっくりとかんで
ふくめるような説明をしたほうが、結局は言い直し、説
明し直しをせずにすむことにつながります。
 TVのニュース番組などでも、ほかの番組以上にゆ
っくりと話す女性キャスターなどもいらっしゃいま
す。多くのメディアも参考に、「話すことのテクニッ
ク」をさらに磨いていただきたいと思います。

③検査、副作用、後遺症の話を省かない
 医療者はプロですが患者は質問することのプロで
はありません。また、繰り返しになりますが、医療者
の常識を患者が呑みこんでいることのほうがごくまれ
です。そんな中で、医療者のニーズが先行されての、
前もっての説明なしの検査、副作用説明なしの投薬、
後遺症の説明なしの手術などは、本来あってはなら
ないことです。②とも重なりますが、説明をきちんと
することは、むしろ後々の誤解やトラブルを未然に防
ぐ防波堤にもなります。

 今はもう「医療は患者が選ぶ時代」というのは共
通認識のキーワードになってきました。しかしこれも
繰り返しになりますが、患者にプロはいません。常に
若葉マークのドライバーです。安心しておつきあいの
できるナビゲーターがいなければ、健康の回復という
大テーマに立ち向かうことはできません。
 先の見えない不安、何をされるか分からない恐怖
をやわらげ、女性の尊厳を大切にしてくれる医療を、
女性は心から望んでおります。明るい未来のために、
ぜひお力を発揮してくださいませ。(了)


脚注* 出版界の慣習で、著者の編集権はあんがい低いものです。
「婦人の患者」といった表現や、リード(書き出し)部分における、
私自身が医療者であるかのような表現はできれば避けたかった
ところですが、やむをえませんでした。
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by yuuko_watanabe3 | 2011-07-17 08:11 | わたしが過去に書いたもの

わたなべゆうこです。blog名を「女は51から」より変更しました。


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